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世界と繋がる道

フレンドシップトレイル

(ソース:台湾光華雑誌)

そよ風に霧雨が舞う中、苗栗県獅潭郷「鳴鳳古道」の登山口に到着した。新鳳吊橋の傍には、2019年台湾・韓国フレンドシップトレイルの記念碑が設置されている。そこには韓国「済州オルレ(韓国済州島発祥のトレッキングスタイル)」のシンボルマークである青い仔馬と、台湾の「樟之細道」をイメージしたクスノキの葉が描かれている。これと同じものが「済州オルレ」の15コースでも見ることができる。

阿里山特富野古道の登山口には、2022年末に締結されたフレンドシップトレイルの案内板が設置されており、その地図上の一角にはカナダ「ブルーストレイル」のマークも見える。

そして現在、もう1つの計画が進められている。台湾の「淡蘭古道」と日本の「宮城オルレ」が2023年11月と2024年5月にフレンドシップトレイルの締結と案内板の相互設置を予定している。

歴史ある古道 文化の道

「この10年間で、ウォーキングやトレッキングが台湾人の生活の一部になりました」と、台湾千里歩道協会(以下「千里歩道協会」)の執行長・周聖心氏は語る。自身の足で歩き、その土地の物語を知る旅が、昨今のブームになっている。台湾行政院は2018年に淡蘭百年登山道、樟之細道、山海圳国家緑道を国際推奨トレイルコースに指定した。この3つのロングトレイルは、天然の生態系と生物多様性を有し、その上、台湾の多元的な文化と歴史を秘めている。ゆったりとして奥深いトレイル体験を通じて台湾を知る旅は、山を愛する外国人旅行客に特におすすめしたい。

例えば、樟之細道の英語名は「Raknus Selu Trail」である。「Raknus」はタイヤル族とサイシャット族の言葉で「クスノキ」を意味し、「Selu」は客家語で「小道」を表す単語の発音表記である。トレイルコースの名称にも多民族の言語が共存している。

各国とのフレンドシップでマッチングを担当している千里歩道協会は、メインルートの全長が220kmにも達する樟之細道のコースの中から「鳴鳳古道」を選出し、韓国「オルレトレイル」とのフレンドシップが締結された。

鳴鳳古道はその昔、サイシャット族が狩りに使った道だった。のちに客家の人々が開墾し、原住民による襲撃を防ぐための柵と砦と道が作られた。日本統治時代には樟脳と茶葉の主要な輸送路として使われていたこの道は、台湾の民族共生と経済発展の歴史を紐解く道でもある。

歩き終わった後には、獅潭老街で仙草茶が飲める。1873年設立の獅潭教会を訪ねると、近くに1本の竜眼の樹がある。マッカイ牧師が当時、この場所で歯科治療を行ったという。この道は豊富な自然の生態系を有するだけでなく、歴史・文化的な意義を数多く秘めている。

1本の道から千里の縁結び

特富野古道とカナダのブルーストレイルのフレンドシップは「御百度を踏んで」ようやく締結に至ったという。周聖心氏はこう語る。「千里歩道協会はオーストラリア、トルコ、レバノンなど各国のトレイル協会に呼びかけをし、最終的にブルーストレイル協会から熱意のある回答が得られました。そこで台湾でも能高越嶺古道の西側や太平山歩道など、国際交流にふさわしいルートを候補として選出しました。」

候補の中から「特富野古道」に白羽の矢が立った。神さまの足跡が残るという「達邦」と「特富野」、このふたつの集落にまたがるトレイルコースはツォウ族が伝統的に狩りを行ってきた道だ。また日本統治時代には木材を運ぶ「山水線」鉄道が走っていた。雲と霧に包まれた高山森林帯の雰囲気を体験できると同時に、集落と鉄道の歴史を感じられるルートである。

千里歩道協会によって記された書籍『手作之道』では、特富野古道が次のように紹介されている。「そこには、今でも鉄道の線路と枕木、桟橋が残っていて、スギやヒノキ、その根元で豊かに茂るシダ植物を見ることができる。さらに、世界でわずか3種しか発見されていないサッサフラスの台湾固有種・台湾擦樹(ランダイコウバシ)や、氷河期時代の生き残りとされる昆欄樹(ヤマグルマ)、そして台湾ドルの1000元札にも描かれている七葉一枝花(シチヨウイッシカ)の姿も見ることができる。」

ブルーストレイルはカナダで最も歴史が古く、最も長いコースは900kmに及び、この道は全てボランティアグループによってメンテナンスされている。台湾とパートナーシップを締結したのは、スモーキングホロウ滝からシティビューパークまで、全長約10kmのコースである。土道、砂利道、昔の競馬場、公道を歩き、滝、渓谷、森林、草原、自然保護区を通り抜け、優美で雄大な風景に出会えるトレイルコースだ。カナダにハイキングへ行くなら、旅のリストに加えたい。

トレイルから世界へ向けて 

「フレンドシップトレイル」は、韓国の済州オルレによって初めて、世界に向けて提唱された。「済州オルレはトレイルを通じて地域が求心力を持つことに成功した好事例だ。」と周聖心氏は解説する。済州島は韓国の離島であり、これまではカジノやゴルフ、ハネムーンで行く場所というイメージが強かった。済州オルレ発起人の徐明淑(ソ・ミョンスク)氏は、人生と仕事に疲れた時、スペインで巡礼の旅に参加し、そこで改めて「幸せ」と「生活の意義」についての気づきを得たという。それを機に、故郷である美しい離島へ戻り、済州オルレを設立した。毎年開催されるウォーキングフェスティバルは済州島で人気の観光イベントとなった。さらには停滞した観光産業を盛り上げるきっかけとなり、地元経済の振興にも貢献している。

トレイルがもたらす平和と友好

2022年、台湾で第4回アジア・トレイルカンファレンスが開催された際、徐明淑氏はメッセージムービーで以下のようなコメントを寄せた。「東日本大震災によって、日本の観光業が大きなダメージを受けた際、日本の観光関係者から九州のトレイル開発に協力してほしいという依頼がありました。しかし、日韓の歴史解釈の矛盾を理由に反対するメンバーがいたため、我々は長い時間をかけて議論を重ね、最終的には両国の協力が実現しました。」

その後、韓国人観光客が九州を訪れ、現地の人々と交流し、お互いの理解がより深まった。韓国人旅行者の日本に対する印象が大きく変化しただけでなく、2022年にソウル梨泰院雑踏事故が発生した際には、日本の仲間たちが自主的に情報発信し、高い関心を示し、韓国への支持を表明したという。「『道』はお互いをつなぐことができます。つながることによってお互いの理解を深めることができます。そして、この道が双方の緊張と衝突を緩和する最良の解決策になり得ます。」と徐明淑氏は語った。

トレイルによる経済振興

宮城県の観光振興を積極的に推し進めている宮城県議員からも台湾に協力要請があり、2023年4月には台湾観光局と宮城県議会によって協力意向書が締結された。

これまで培われてきた日台友好の信頼関係をベースに、双方が4つのルートを選出し、千里歩道協会がマッチングを担当する。太平洋が一望できる台湾東北部の「草嶺古道」と気仙沼の「唐桑コース」、温泉も楽しめる台湾礁渓の「跑馬古道」と大崎の「鳴子温泉」、台湾でもよく知られた「金字碑古道」と「奥松島コース」、基隆「暖東渓谷」と「登米コース」がそれぞれフレンドシップトレイルを締結する。

なかでも、基隆暖東渓谷のある暖暖地域は、淡蘭百年登山道の北路と中路の起点であり、かつては台湾北部における藍染原料や石炭、茶葉の輸送拠点でもあった。暖東渓谷トレイルは淡蘭古道中路の人々の生活と経済に欠かせない道である。猴峒から三貂嶺の金字碑古道までは、かつて淡蘭官道が通っていた。歴史的な遺跡が数多く残され、淡蘭古道200年の魅力を体験できる。

淡蘭古道では、路上のあちこちで氷河期の生き残りとされる植物「双扇蕨」を見ることができる。また沿線の店舗では、地元で栽培されているカボチャやジンジャーリリーなどを使ったスペシャルメニューやお弁当、オリジナル商品を開発していて、積極的に地方創生を推進している。

台湾の現地視察に何度も訪れたことのある宮城県議員は、言葉の端々に台湾への感謝をにじませる。ある時、跑馬古道を視察していると、道端にブッソウゲの花が咲いていた。ガイドはその花を手に取り、直接口をつけて蜜を味わうことができると紹介してくれた。宮城県議員の高橋宗也氏はその時のことを振り返る。「私が子供の頃も同じようにした記憶があります。今になって台湾で、このように懐かしい体験ができるとは思ってもみませんでした。台湾に来るたび、自分の故郷へ帰ったような感じがします。」

2023年、台湾と仙台の航空路線が復活し、お互いのフレンドシップトレイルを訪ねる旅が一層便利になった。トレイルによる交流は、地元の観光と経済にも寄与している。

歩く旅というのは最も本質的なスタイルの旅であり、同時にサステナブルを実践し、CO2削減にも貢献できる。台湾では、激しい雨と風の日も、太陽が道を照らす日も、行き交う人に「こんにちは!」と声を掛けられ、うなずいて微笑んだ経験をしたことが、誰しもあるだろう。息を切らして歩いていたら、後ろから来た人に追い抜かれて「頑張って!」と励まされることもある。台湾のトレイルを歩くと、あちこちで台湾の生活や文化に出会うことができる。そこからまた台湾の違った一面が見えてくるだろう。

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最終更新日:2023-08-21
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